ほかに好きなひとができた。

職場のさあやちゃんは、
「わたし、偏食なんです。」
と言う。

恐らく度数は入っているのであろう、おしゃれで大きめな丸メガネ。
背も頭もちいさい上に、前髪から下の露呈している、いわゆる顔部分が上下コンパクトなので、いくつになっても幼い印象をうけるのだろうな、という風貌。
コミケのTシャツにオーバーサイズのジャージを着こなすあたり、生粋のサブカル女子であることは明白である。
相対して言葉を交わすときでも、視点はいつも、正面から観測して、斜め下を向いている。

彼女は、好きだとおもったものを、1日3食、延々と食べるのだという。
去年はアメリカンドッグブームがきて、数週間、アメリカンドッグだけを食べ続けていたらしい。
ノーマルのカップ焼きそばひとつ食べきれないという少食で、今年に入ってから5キロも体重が落ち、気圧に過敏な体質のせいで、つねに頭痛に苦しんでいる。
長年の主治医に、
「きみ、よく生きているね。」
と、匙を投げるではなく、純粋な感想と感嘆をもって呟かれたのだという。

偏食ブームは、ずうっと続く、ということではないらしい。
「飽きがきて、次にいくの?」
と私が問うと、
「ううん、次にもっと興味があるものができるの。」
と、さあやちゃんは答えた。
「なるほど!男と一緒だね。」
と私が言い放つと、いつも気怠そうなさあやちゃんは、春風みたいに、ふふっと笑った。

わたしはそれが、とてもかわいくて、愛おしい、とおもった。
その瞬間のためなら、バキバキにでも心をくだきたいよなあ、と思った。
本望だなあ、と、感じた。

ほかに好きなひとができた
きみを好きじゃなくなった
きらいになったわけじゃない
でもほかにすきなひとができた

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