父と写経と絶望と。

父の撮った私。
写真は撮る人によって本当に変わる。
だからカメラマンという仕事がある訳だが。
撮り手側の切り取り方も勿論あるけれど、撮られる側が無意識的に"その人"に向けている顔が現れるんだとも思う。
その人にしか撮れない顔があったりする。
このなんとも言えない表情、幼少期から変わらない。
父にしか取れない私の顔だと思う。


先日なんで父に突然ボロ泣きで思いの丈をぶつけたんたんだろうかとふと思った。
写経の話が発端だった。
父は毎週、写経をしている。
数ヶ月に一度、お寺へ出向いて写経の会にも参加している。
私も誘ってもらったのだが、心身がダウンしていてなかなかタイミングが合わずまだ行けていない。
父に写経セットを貰って、私もやってみた。
写経セットと言っても、父がお寺で戴いてきた般若心経の原本をコピーしたものと、そのサイズに丁度良いからという理由で新品の作文用紙、クリップ、おすすめの筆ペンの4点。
作文用紙の裏側を表にし原本に合わせてクリップを止めて、うっすら見えている文字をなぞる。
作文用紙なので表側の文字の枠もうっすら透けて見えてとても邪魔。
クリップは私の親指くらいの大きなサイズで、これもすごく邪魔。
筆ペンは、色々試してみている父が勧めるだけあって、トメ・ハネなどとても書きやすかった。
正直、重ねずに書いた方が邪念無くやれると思ったのだが、せっかく父が用意してくれたのだしと頑張って書いた。
文字を書くことに専念して、間違えないように、一筆一筆集中して書き進める。
1時間以上費やして完成したのが上の写真の写経。
私は文字を形として捉えているので、はねる向きや抑揚の付け方が見本と少し違うだけで、ああこの字は駄目だとプチ絶望。
私の完璧主義が過ぎる性格のせいで結構な苦行だった。
完璧主義の私の中では100点満点ではないけれど、それなりにがんばったし人には見せられるレベルであろうと思い、父親に写経したよと写真を送った。
父の写経セットという好意を受けて、実際にそれで写経をしてみましたという結果を返したつもりだった。
好意に好意で返すという方程式は、プラスとプラスの足し算のようなもので、基本的には安定したものである。
だからきっと父も喜んでくれるだろうと踏んでいたし、あわよくば褒められたいという気持ちも無くはなかった。
しかし、私はすっかり忘れていたのだ。
相手が超絶無神経人間の父である事を。
後日ごはんを食べに行った際父が放った一言は、
「お前、書き順が違うぞ。こりゃあ駄目だ。」
だった。
私はすっかり忘れていたのだ。
進撃の巨人で、巨人に壁を破壊されたシーンがこの時の心情に一番近い。
期待と好意と信頼が、ガラガラと音を立てて崩れ落ちていく。
大袈裟かもしれないのだが、まさにこれ。
卒倒しそうになりつつもなんとか堪えて持ち直し、どこが違うの?と問い返すと、"乃"という字を指差して、コレ、と言った。
一文字。
なんだろう。
私に恨みでもあるのだろうか。
普通人の写経の一文字一文字の書き順なんてチェックしなくないか。
文字から書き順推理して指摘するとか、小学校低学年の先生くらいなのでは。
そこまで見越した上での写経セット贈呈だったのだろうか。
用意周到も甚だしいだろ。
確かに違うのかもしれないが、言い方ってものがあるだろうよ。
同じ案件でも、父が言い放つと訂正や指摘ではなく否定の色がとても濃いのだ。
こちらは曲がりなりにも精神病患者なのだしご配慮願いたいところ。
しかし、今に始まった事ではない。


父に対し何度となく小さな期待を積み上げ、都度薙ぎ倒されては思い出す。
今度こそ、このくらいの事ならばきっと、とその度に傷ついていくのはいつだって私の心の方である。
問題なのは、父本人に悪意が全く無い事だ。
昔からそうだった。
心を開いた頃に、言葉でザックリと刺しにくる。
本人の自覚がないので、刺される予兆もへったくれもない。
そして自分が傷ついたからといって、相手に悪気がないので訴えるのを憚ってしまう。
大人になった今でさえこんなに狼狽えているのだ。
幼少期に味わった威力は凄まじかった事だろう。
別に被害者振りたいわけでも糾弾したいわけでも無いが、現在の自己肯定と自信の欠如は父が大きく関係していると思う。
期待とはエゴであり報われる保証の無い浅はかな自己満足なのだと悟った。
それでもやっぱり、期待をして希望を抱いて絶望する。
しんどいけれどそれが人間だから、嫌だけど悪い事ではないんだと思う。


先日出かけた際、お酒の入った勢いで、初めて父にぶつけた。
かなしかったし、傷ついたんだよと泣きながら言った。
えー、そんなつもりなかったなあとキョトンとする父。
これで父が人を傷つけなくなるとはおもわないが、打ち明けただけ、一歩進めたんだろう。
今後一切関わりたくない人間には、こんな事わざわざ言わない。
そう考えると、何も言われずにこの歳まできた父は少々不憫でもある。
実の父だし、言い難いこともぶつけていこう。
お互い元気で生きているうちにね。
泣き寝入りで伝えられないままなんて絶対嫌だからな。
次からばんばん言い返すからな。

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